L'ocanda 【岡田拓馬シェフ】

―厨房で働く人たちを見て惹かれていた。高校生のころには料理人になりたいと思っていた―


ヒラフに2012年12月にオープンしたイタリアンレストラン【L'OCANDA(ロカンダ)】。ここの厨房を取り仕切るのはイタリアで本格修行もしたことのある、まだ30代の若きシェフ、岡田拓馬さん。今回、”料理人”岡田さんをクローズアップしてみました。

学校での料理の勉強を終えて、札幌のイタリアンレストランで就職し、その後、イタリア中部へと修行に旅立った岡田さん。トスカーナ地方を選んだのにはわけがあり、北海道と同じような位置にあるため、採れる物も似たようなものが多いから。ニセコに似た環境ということは、そこで得た技術もそのまま持ち帰って使えるということを意識したそう。


イタリア料理修行時代 ―おばあちゃんの味と家族のつながり。肉を扱う者として知らなければならない伝統や文化を学ぶ―


言葉も話せないまま26歳のときに単身修行へ出る。料理人の修行は、語学学校などのいわゆる「学校」で教わるものではなく、行き当たりばったりということが多い。なぜなら、自分で食べ歩いたときに、そこでおいしいと感じたことや、驚きなどを、直接厨房へ行き、シェフに会い、教わることが多いから。田舎に行けば行くほど、若い料理人を受け入れる体制が整っていて、住み込みで教えてもらえることが多い。岡田さんもまた、トスカーナ地方のこじんまりとした、イタリアンマンマが経営するようなお店を食べ歩いたそう。


「どこの国でもそうですが、おばあちゃんの作る料理はおいしい」


日本でも、やっぱりおばあちゃんの作る味は、どこか懐かしく、とてもおいしい。岡田さんはイタリアでも、住み込みで働くことによって、その家族の食卓を経験し、おばあちゃんやお母さんがつくる味にとても驚かれたそう。家族の結束が強いことでも知られるイタリア。特に家族同士でつながるほかの家族との付き合いがあるからこそ、食卓が華やぎ、料理が人と人をつなぐ。それをとても強く感じたそう。

イタリアンシェフである限りは、なぜイタリア料理ができたのか、また、ヨーロッパを代表する肉がメインの文化を理解するためにも、それを知るには学ぶよりもまず、現場で見るのが手っ取り早い。岡田さんはレストランだけでなく、地元のお肉屋さんでも働く機会を得た。牛一頭を丸ごとさばく、とても伝統的なやり方も目の当たりにした。お客さんも、「この料理を作りたいからこの部位が欲しい」という買い方をしにくる。その、「肉の文化」は日本のそれとは違っていて、とても学びが多かったと岡田さんは語る。


「お客さんのほうが僕よりも肉の部位を理解していたりする(笑)」


牛を丸ごと一頭、その場でさばいて売る。実際、牛の中で1/4しか生肉では売れない。では、そのほかの部位をどうするか。保存して、さらに付加価値をつけて売らなければならない。生ハムがなぜ生ハムとして売られるのか。ただ保存というだけの理由ではないのはそういうことも含まれていて、それが文化へとつながる。生きていくには必要なこととして、いったいこの肉はどこから来るのか?という扱う側の人間が知っていなければいけないことを、またひとつ知れた経験だったという。


―地元を愛している。結局ここでしかできないこと、自然とできる人や食材とのつながり、を大切にしている―


岡田さんはもともとこの地で生まれ育ち、一度は札幌やイタリアへでたものの、やはり地元に帰りたいという想いは強かったそう。北海道と一言で言っても広いが、もっと細分化したときに、この後志地方という部分だけで見ても、ここでしか採れない物があり、食材はほぼそろってしまう。過去には、●●産の●●さんが作ったもの、として掲げていたりはしたけれど、最近は、ここでやっているなら、ここのものを使おうという意識が強くなった。当然、地元以外の食材を使うことはあっても、それはすべて信用している場所からしか得ていない。使用するものにはすべて自信がある。


「そんなこだわり、というようなものはないですよ。ただ肩肘張らずに作るだけ。」


使用するものに自信を持ち、地元のものを愛しているのは、立派なこだわりだといえる。L'ocandaは、ご家族で経営されているので、雰囲気もおのずとアットホーム。ご両親が店の裏にある畑で栽培してるものを、すぐに料理に取り入れられる点、お母さんのセンスが光る店内のインテリア、弟さんが腕を振るう魅力的なスイーツたち。ここまで約3年。海外のお客さんも増え、地元の人々にも愛されるレストランになった。まるで、自分ちにくるようなリピーターさんが多いのが特徴。子供たちをつれて食べに来るファミリーは、まるで家族と家族のつながりのよう。そう、それはイタリア修行時代に感じた、家族と家族のつながりそのもののようで、得たこと、感じたことがそのままちゃんと、活かされている。


―ここで生きている自分が、ここで料理することによって循環している。それを意識していると、おのずと自分のお皿にも反映される―


料理に対してはもちろん情熱を持っているが、料理だけに自分のすべてを注ぎ込むということは、ヒラフに戻ってきてからはあまり意識していない。それは、岡田さん自身がヒラフで生活しているライフスタイルが自然と料理に生きているから。家族といること、友達が作った野菜を調理すること、見慣れた山々の美しさを再確認すること、そのここでの「生活」の中の料理にすぎないということ。ここでの生き方、生活はここ以外どこでもできないというそのスタンスが料理に反映される。まるで、そのサークルの中の一部分であり、自分が料理を提供することは、その循環の中で必要とされること。きっとそれが、岡田さん自身の情熱となっているのだと思う。


―ヒラフの風景の一部になることが理想―


岡田さんに今後の夢を聞いてみた。返ってきたのは、こんな一言。


「ヒラフに行けばアンヌプリがある。そしてそこにはL'ocandaがある。という風景の一部になれたらとても理想的」


もう、すでにヒラフのおいしいイタリアンレストランとして名を馳せているけれど、このエリアを愛しているからこそ、の理想像なのかもしれない。家族で経営し、お菓子とイタリアンというお店は珍しい。家族でやるということにはもちろん難しいことも多いが、逆を言えば家族でないと、あのアットホームな雰囲気は出せないともいえる。知らないお客さんにすら、お母さんですか?お父さんですか?家族でやってるんですか?と聞かれることもよくあるらしい。皆で一緒にこのレストランを作っているという意識が強く、たとえば採れた食材を料理するときには、素材に関しては長けていて、知識も豊富なご両親に聞くこともでき、また新メニュー開発の際には、家族ゆえに”厳しい”生の声が聞ける。それはまた、イタリアではよくある話だ。このひらふエリアで営業するにはそれがベストだと岡田さんは自負している。

ヒラフはここ近年急激に外国人観光客や移住者が増え、その客層や国籍にも変化が見られる。オーストラリア人が多かったが、近年ではアジア圏、特に香港、シンガポール、タイなどが増えてきているそう。メニューつくりは、そういう変化には特に意識せずに、「ヒラフイタリアン」を追求している。

また、しばらくするとどっさりと雪が覆う季節がやってくる。たくさんの外国人やツーリストでにぎわうヒラフ。L'ocandaは今年の12月で3年目を迎える。そこにアンヌプリがあるように、ヒラフにはいつも温かく迎えてくれるL'ocandaがある。



L'ocanda

北海道虻田郡倶知安町字山田76-12

0136-55-8625

ケーキ:11時~20時

ランチ:11時30分~14時

ディナー:18時~20時

定休日:火曜日・第3水曜日